甘いこと俺に教えてよ
第四話
〇冒頭・図書室・放課後(夕方)
三話の続き。
至近距離で見つめ合う舞羽、陵。
陵「羽衣花先生のためならなんでもしてくれるんでしょ?」
舞羽(なんでもって言ったけど……男の人に迫ったことなんてないから、どうすればいいかわからないよ)
陵、困惑する舞羽をじっと見つめる。
舞羽(ど、どうしよう。わからないけど…… 羽衣花先生の力になれるなら……)
舞羽「せ、精一杯、が、がんばります!」
目をぎゅっとつぶって声を上げる舞羽。
陵の両肩をグイっとつかむ。
舞羽(言ったはいいけど……迫るっていったいどうすれば……)
陵「全然迫られてないけど?」
舞羽を煽るように、不敵な笑みを浮かべながら言う陵。
舞羽(ど、どうしよう……)
次の行動に出ようと舞羽が動いた瞬間。図書室の入り口のドアががらりと開く。
達也「あれ……?橘さんじゃん、」
達也:舞羽と同じクラスの高校二年生。図書委員。舞羽とは小説の話題でたまに話す仲。
達也の登場に、陵からぱっと離れる舞羽。
舞羽「……達也くん、なんで図書室に……。あっ、図書委員だから?」
達也「うん。ちょっと先生に頼まれて……」
達也、舞羽と陵を不思議そうに交互に見つめる。
達也「あれ、二人は仲良いの?」
舞羽「えっと、うい……陵先輩とは、いや、今会ったばかり!」
焦りすぎた舞羽。陵と初めて会った設定を言ってしまう。
達也「そうなんだ。先輩は結構図書室で会いますよね?」
達也、陵に向かって話かけるが、陵の態度は冷たい感じ。軽くうなずく陵。
舞羽(そっか。陵先輩、図書室で作業することもあるって言ってたもんね。二人は顔見知りなんだ)
達也「そうだ!橘さんにお勧めしたい小説あるんだ。青春小説好きって言ってたよね?」
舞羽「うん!え、なんていうタイトルの本?」
小説の話で盛り上がる舞羽と達也。面白くないような顔で見つめる陵。
達也「スターツ出版から刊行されたんだけど……すごく面白くて一気読みしたんだ。良かったら貸すよ?待って。今、鞄にあるはず……」
舞羽「いいの?ありがとう」
達也、鞄の中から小説を探す。小説を貸してもらえることを喜ぶ舞羽。
達也「あった。これ、どうぞ。返すのはいつでもいいから。とにかく面白いから読んでみて?」
達也、舞羽に小説を差し出す。
舞羽「ありがと……」
達也から差し出された小説を受け取ろうとする舞羽。
小説に触れる前に、陵が舞羽の手を掴んで阻止する。
舞羽「え、」
陵「いらない」
俯きながら言う陵。顔を上げて達也を軽くにらむ。
舞羽「え、ちょっと……」
陵、舞羽の手を握ったまま図書室から出ていく。
舞羽、図書室に残された達也を気にしながら何度も振り返る。しかし、陵に手を引っ張られているため、されるがまま歩いていく。
達也、図書室にぽつんと一人残される。
達也「なんだ……橘さんが喜ぶと思って何冊も読んでせっかく選んだのに……」
不満そうに呟く達也。※達也は舞羽に片想いしている。舞羽が小説好きなのを知って、自分も読み始めた。
〇学校・廊下(夕方)
誰もいない長い廊下。窓から夕陽が差し込む。
舞羽「り、陵先輩!」
舞羽が呼びかけると足を止める陵。
舞羽「どうしたんですか?なんか……その怒ってます?」
機嫌が悪そうな陵。
陵「怒って……るのか?俺は、」
自分に問いかけるよう話す陵。よくわからないといった表情。
舞羽「えー。なんか顔が怖いし、何度呼び掛けても反応なかったので……」
舞羽(ん?達也くんがきた途端、怒ったような態度。あれ、これってもしかして……やきもち⁉ 羽衣花先生、もしかしてわたしのことを……好き、とか⁉)
妄想を膨らませて、脳内で勝手に盛り上がる舞羽。
舞羽「も、もしかして……やきもちとか?」
おそるおそる陵に聞く舞羽。
陵、舞羽の質問に考える。そして口を開く。
陵「そうかも……」
舞羽「えっ!」
舞羽(まさか本当にやきもちだなんて……!)
陵「だって……あんなに『 羽衣花先生の小説が好きです』って言ってたくせに、他の小説貸すって言われただけであんなに喜んで……」
舞羽(そっち⁉)※陵がやきもちをやいたのは、恋心からではなく、小説家としてだった。がっかりする舞羽。
舞羽(あれ、なんでがっかりしてるんだろう……)
陵「そりゃあ、読者にはたくさんの小説を読んでほしいよ。小説を読む人が増えてくれたらすごくうれしい。その中で俺の小説も好きだと言ってもらいたい。だけど……なんか、舞羽は嫌だ」※今まで娘ちゃんと呼んでいたのに、突然名前呼びになる。
ドキッとする舞羽。顔が赤くなる。
陵「俺、舞羽といたらスランプ抜け出せそうな気がする」
舞羽「え、」
舞羽をじっと見つめる陵。
陵「俺に教えてくれない?」
舞羽「な、なにをですか?」
陵、舞羽の手をぎゅっと握る。
陵「こうしてを握ると、心臓の鼓動は早くなるのか……」
ドキドキと心臓の鼓動が早くなる舞羽。
陵、舞羽の髪の毛をさらりとなでる。舞羽の長い髪の毛をさらりと指につたわせる。
陵「こうして、髪にふれると、ドキッとするのか……」
舞羽、顔を真っ赤にさせる。
陵、少しかがんで舞羽の視線と合わせる。そして、舞羽の唇に指で触れる。
陵「……キスは甘いのか、」
舞羽(き、きす……⁉)
陵「俺、恋愛小説に必要なドキドキする感情を知りたいんだ。俺にドキドキすること教えてよ?そしたら、新しい話が書ける気がする」
舞羽モノ(羽衣花先生の力にはなりたいけど……でも……男女がドキドキすること!?)
舞羽(恋愛経験のない私には……難問すぎる!)