シンデレラはちょっとばかしギャグに包まれている
披露宴の豪華な会場の扉がゆっくりと開く。
そして開いた瞬間ざわつく会場。
勿論一番騒いでいたのは、親族側に座っている氏家 家だ。
「おいっ!!花の隣にいるの桜小路グループの一人息子の蒼真様だぞ!?」
「はぁぁぁ!?なんであのゴキブリが!?あのキモデブはどうなったのよ!!」
「ちょっと!パパママ!!何でゴミがあんなイケメンと並んでるのよ!!」
「……お腹減った。」
予想通りの反応している家族とも呼びたくない家族達が、周りから不快な顔をされていることに全く気付かず大声を上げて騒いでいる。
あまりの声の大きさに注意をしようとその氏家 家の背後に近づくそう太さん。その存在に気付いたパパは
「なんだよ!デブ!てめーダミーかよ!ふざけんなよ?」
「そうよ!まんまと騙されたわよ!!長女ちゃんの方がよっぽどあの人にお似合いなのに!」
「あーぁキモデブに騙されるとか黒歴史なんだけど。」
周りがちょ……何も知らないの?あの人らとざわざわ青ざめた顔で皆引いている。
「失礼ですが、これ以上騒ぎを起こしますと警備員を呼びますよ?」
「呼びたきゃ呼べよ!てめーが糞デブのダミーって世間にバラしてやろうか!あ!?」
「ご挨拶は以前しましたがね?桜小路グループの専務取締役桜小路そう太と申します。」
「「「………!!!」」」
「ご飯まだぁ?」
きっと彼らは明日から地獄を見ると蒼真は言っていたが、私はあんな家族でもそんなことを望んでいない。
隠れて動いていた氏家会社の元請けや取引先の契約切りも、その裏で私もコッソリと動いていた。また一からやり直せる程度の繋がりを残してあげたのはここまで育ててくれたせめてもの恩返しだ。
あとはパパの努力と継母のあげマンを信じるしかない。
今はまだ、氏家 家にはこのガラスの靴誰の?ちょっと履いてみて券の取得すら持てないのだから。少しだけでも良い、人を傷つけていいのは自分が傷つく勇気がある人だけだ。
否!!
むしろ人を傷つけない事が当たり前のことを目指して頂きたい。
参列しているお客は千人を優に越えてる。左右見渡すと、どこぞやの社長や著名人やら芸能人やら大物が勢揃いしているが、恥ずかしながら私が出した招待状は一つだけ。
「花ちゃーんお綺麗ですよぉぉぉ!」
家政婦の高橋さんが拍手をしながら大きな声で呼んでくれる。
希望の一筋すら持てないあの家で、人間扱いをしてくれた唯一の人。
私が家族に苛められる度薬を塗ってくれた。心配もしてくれた。料理を教えてくれたあの時間は私の宝物です。
高橋さん……大好きです。
でもきっと、近々氏家 家から金目の物は無くなりますのでご了承下さい。
「……花。本当に綺麗だ。」
「……ありがとう。」
「……こんな大勢の前で世界一綺麗な花を抱けたらどんな興奮と幸福感を感じられるだろうか。」
「……っ!?」
シンデレラになれた私。
宝石が散りばめられたガラスの靴は、少し靴づれするけど我慢する。
だって幸せだもん。
「失礼ですがそこの女性、その美しい瞳に吸い寄せられました。お名前を伺っても宜しいでしょうか。」
「……は?……え?」
「こんなに美しいのですからご結婚とかされておりますよね。」
「……え?いや、独身ですけど。」
「あぁわたくしは幸運です。良かったらお名前をお聞きしても宜しいでしょうか。」
「……高橋……です。」
「わたくし桜小路そう太と申します。今夜は空いてますか?」
「……は、はい。」
【完】