Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

しばらくカクテルを無言で飲んでいたが、幸成が口を開いた。

「今日、森圭太郎氏の解剖をした」

「死因がわかったのか？」

「ああ。トリカブトの毒による中毒死だ」

「トリカブトだと？」

紫の美しい花を咲かせるトリカブトは、猛毒を持った植物として有名である。その毒は心室細動や心停止を引き起こし、死に至る。その致死量は葉一枚に含まれる約一グラムとも言われている。

「およそ三グラムが体内から検出されたよ」

「三グラムということは、ほぼ即死じゃないのか？」

圭太郎がトリカブトの毒を自ら摂取した可能性は低い。彼は何者かに騙されて毒を体内に入れられたことになる。自殺や病死ではない。他殺だ。

「毒殺か……」

紫月の体に寒気が走った。