Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
アノニマスが書いた小説を読んでいた碧の顔を思い出す。碧は楽しそうに読んでいた。紫月はアノニマスにふと訊ねる。

「お前はどうして小説家になったんだ?」

「……翡翠の好きなものだったからな」

アノニマスは目を細め、翡翠の胸元を撫でるように優しく触れる。紫月が「好きなもの?」と聞き返すと、アノニマスは頷いた。

「家にも学校にも居場所がない翡翠にとって、物語の世界は唯一の居場所だった。この子はたくさんの本を読んで、空想の世界を膨らませていた。可愛い服を着て、可愛い家具に囲まれて、自分で物語を考えて、誰かに自分の物語を読んでもらいたい。この子の空想のたった一部に過ぎないが、あたしはそれを叶えてあげたいと思ったんだ」

「そうか……」

可愛い服も家具も、アノニマスの好みとは真反対なのだろう。しかし翡翠を彼女は一番に考えている。彼女の幸せのために自身の気持ちを抑えているのだろう。

「お前は本当は優しい人間なんだな」
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