Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「宇山咲良にそのトリックはできないのか?新婦なら新郎と二人きりで会う時間だってあるだろう」

「トリカブトは猛毒だ。そのトリックを仮に使ったとすれば、圭太郎氏は一瞬であの世に送られる。圭太郎氏が亡くなったのはバージンロードを咲良さんが歩き終わってすぐのことだ。咲良さんは圭太郎氏の口に一切触れていない」

「そうか。お前たちのいる前でそんな行動を取れば犯人だと丸わかりだな」

しかし、咲良以外に圭太郎に濃く接触できる人物はいない。彼女が犯人だとするならば、圭太郎が死亡する時間を遅らせる必要がある。

(しかし、そんな魔法のようなことが可能なのか?)

紫月が考え込み始めたその時だった。玄関のチャイムが音を立てる。アノニマスが警戒した様子で立ち上がると、バタバタと廊下を走る大きな音が響く。紫月は嫌な予感がして身構えた。リビングのドアが勢いよく開く。

「翡翠!!」

リビングに入って来たのは翡翠の叔母である千秋だった。彼女は手土産の入った袋を掲げて笑顔を浮かべていたのだが、紫月という招かれざる客を見つけるとその顔を一瞬にして歪ませた。

「あんた、翡翠を疑った刑事じゃない!!どうしてここにいるの!?またこの子に何かするつもり!?」
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