Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
いつも読書をしている碧は椅子に座っておらず、部署のどこにもいない。しかし紫月は気にも止めず、自身のデスクで事件資料を読んでいる蓮に声をかけた。蓮も先ほどまで警視庁の外で聞き込みをしていた。

「そっちはどうだったか?何かわかったか?」

「いや、あまり収穫はありませんでした。宇山さんの元恋人の青柳真(あおやなぎまこと)さんは彼女と別れさせられてから仕事でタイのプロジェクトに参加させられていて、日本にはいません。事件当日もタイで仕事中だったので、宇山さんの代わりに青柳さんが殺害したという可能性はゼロです」

「そうか。こっちも手がかりはゼロだ。泉先生に毒殺のトリックを聞きに行ったが、不可能だと言われた」

「そりゃあそうですよ。小説や漫画で登場するトリックって、実際の事件で使われないように多少無茶なものを用意する作家さんは珍しくないそうですし」

一体犯人は誰なのか?どうやって毒殺したのか?それを話そうとすると、「ゴホン」と大きな咳払いが一つ響く。紀人が雑誌から顔を上げて二人を睨んでいた。
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