Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
まだ見えていないピースの方が多い。事件というパズルが完成するのはまだ時間がかかりそうだ。紫月は真夜にお礼を言った後、すっかり冷めてしまったパスタを食べた。



それから数日後のことだった。捜査一課の捜査は行き詰まっており、いつもは暇さえあれば嫌味を浴びせに来る優我と智也は紫月のところに来ることはなく、彼も彼で毒を遅らせる方法を考えていた。

「太宰」

自販機にコーヒーを買いに行った際、紫月は声をかけられる。修二だった。警視庁に泊まり込みで捜査をしているのか、スーツはシワが目立ち、髭も生えている。何より顔が疲れに満ちていた。

「芥川さん!お疲れ様です」

「お疲れ様。全く捜査が進展しないな」

修二もコーヒーを買う。しかし紫月とは違い、彼が買ったのは砂糖もミルクも入っていないブラックのものだ。

「はい。俺と夏目、それから同じ場所の二人も考えてくれてはいるのですが中々……」

「捜査を一緒にしてくれる仲間が増えたのか?それは心強いな」

そう言って微笑んだ修二の顔は、学校で子どもが初めて友達ができた時のような反応だった。「子ども扱いしないでくださいよ」とすぐに紫月は唇を尖らせる。
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