Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「すまんすまん。お前を見ていると娘を思い出すものでな」

「娘さん、ですか……」

修二は娘を亡くしている。その哀愁が隠れている目を見ていると、紫月の胸も苦しくなっていくのだ。

「娘さんはどんな人だったんですか?」

「正義感の強いいい子だったよ。将来は俺と同じ警察官になりたいって小さい頃から言っていた。もしも大人になっていたら、俺と一緒に捜査をしたりする日があったんだろうかと考えてしまう」

「芥川さん……」

和也の顔を思い出す。圭太郎は聞き込みの結果、恨みを多く買っているような人物だった。しかし父親である彼は泣いていた。どんな息子でも、親にとっては可愛い我が子なのだ。

(絶対に犯人を見つけなくては!)

その時、紫月のスマホが音を立てた。電話がかかっている。表示された名前を見て、紫月は首を傾げた。アノニマスが自分から連絡をすることは初めてだからである。

「すみません、芥川さん。電話がかかってきたので」

修二から離れ、紫月は電話に出た。「もしもし」というとアノニマスの動揺したような声が返ってくる。
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