Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
『おい!お前が話を聞いた医者と使用人の子どもの名前は何だ?』

「どうした?随分動揺しているな」

『いいから答えろ!』

「わかったわかった。確か、新美陽奈と宮沢樹だ」

いつも冷静な彼女とは思えない。翡翠の中にはアノニマス以外にももう一人人格があるのだろうか。そんなことを紫月は考えてしまう。

『実は今、和歌山の水月町に来ている』

呼吸を整えたのか、彼女の口調はいつも通りに戻っていた。紫月が千秋との会話を思い出して訊ねる。

「行くのは五月の終わりじゃなかったのか?」

『普段の町の様子も見ておきたくて来てみたんだ。そうしたら、健康サプリを開発する会社に勤めていると言ってニイミヒナという女が来たんだ。男連れで』

「二人の顔写真はあるか?」

『今、ちょうど後ろで年寄りにサプリを配ってる。ビデオ通話にするぞ』

アノニマスがそう言った数秒後、彼女の整った顔立ちが画面いっぱいに映し出される。白い大きなリボンが特徴的なブラウスの上にピンクの花柄ジャンパースカートを着て、ツインテールにした赤い髪にはピンクのヘッドドレスが付けられていた。手には日傘が持たれている。
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