Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「失礼します」

教室ほどの広さの貸し会議室には、修二と事情聴取をした二組の夫妻、そして写真で見た大倉夫妻がいた。しかし健太郎の診療所で見た写真よりも、二人は痩せてどこか不健康に見える。義昭は落ち着きなく周りを見回し、麻美はブラウンのスカートの上で手を忙しなく動かしている。

「お待たせして申し訳ありません」

紫月が言うと、「あの」と朋子が恐る恐るといった様子で口を開く。彼女の目は隣に座る大倉夫妻に向けられていた。

「どうして兄夫婦までここに呼ばれたんですか?二人は事件には無関係のはずでは?」

「いいえ。残念ながら無関係ではないんです」

紫月は即座に否定し、椅子に座る。会議室に緊張の糸が張り巡らされていく。全員の視線が紫月に集まる中、彼は言った。

「圭太郎さんを殺害したのは、ここにいる全員ですから」

「は?」

蓮以外の全員の口から声が出る。修二が「どういうことだ?」と紫月に詰め寄るように訊ねた。悟が「ありえない!」と叫ぶように言う。

「圭太郎様の結婚式にここにいる全員出席していないんですよ?どうやって圭太郎様を殺したというんですか!」
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