Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
蓮の問いかけに義昭が机を両手で叩く。その顔は怒りが滲み、目は赤く血走っていた。

「あれは死ぬべき人間なんだ!華を死に追いやったあの男なんか!」

義昭はポツポツと話し始める。彼らが森圭太郎を憎むようになったのは、七年前の地震の時からだそうだ。

「地震が起きた後、奇跡的に家族全員が無事で避難所で生活していた。家族が生きていることが嬉しかったよ。それをあの男が……!!」

地震から二週間ほどした頃、避難所に和也と圭太郎が訪れ、被災者に今必要なものなどを聞いて回っていたそうだ。そして華は「手伝ってほしいことがある」と圭太郎に人気のない場所へ連れて行かれ、そこでされてはならないことをされた。

いつまでも戻って来ない華を心配し、大倉夫妻は探したそうだ。大倉夫妻だけではない。宮沢夫妻と新美夫妻、そして二人の子どもも捜索に加わった。そして、物陰に隠されるように倒れている華を麻美が発見したのだ。彼女は体を震わせ、涙を流しながら叫ぶように言う。

「娘は死体と同じだった。生きているのに、心臓が動いて温かいのに、死体のようだった。そんな娘を発見した私たちの気持ちがわかる?娘が玩具のように扱われて憎まないことができる?」
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