Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
麻美が声を上げる。嗚咽が会議室中に響いた。紫月の胸が大きく痛む。殺人に走った理由はあまりにも悲しいものだ。しかし彼らは裁きを受けなくてはならない。

「……署までご同行をお願いします」

修二が苦しげにそう言い、麻美たちを連行していく。その後ろ姿を紫月は見ることができず、窓から見えるビルの群れを見つめていた。



その日の夕方、紫月の姿は警視庁ではなく東京駅にあった。とある人物を待っているためである。

パステルブルーのキャリーケースを押しながら小柄な一人の女性が姿を見せる。胸元にリボンがクロスしているティファニーブルーのワンピースを着て、ハーフボンネットをブラウンのシニョンに結んだ髪につけている。

「アノニマス」

紫月が声をかけると、彼女は驚いた様子も見せずに立ち止まった。

「お前と同じ部署の人間が町に来て、サプリを回収していったぞ。事件は無事に解決したようだな」

「ああ……」

紫月の顔が曇る。麻美たちの顔が頭から離れない。そんな彼をアノニマスは覗き込んだ。
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