Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「そんなこと言わないでください!あんなことがあった後、責任を管理官たちはみんな太宰さんに押し付けようとしたじゃないですか。「絶対に吐かせろ」って言い続けたのは何もしていない管理官たちなのに……」

紫月は管理官たちから責められた時のことを思い出す。今でも彼らから掛けられた言葉は、紫月の心に深い傷を残している。

上司から責められ続け、同期からは白い目で見られ、俯くことしかできなかった紫月を庇ってくれたのは蓮だけだった。そんな彼の目は澄んでいて、邪心を感じ取ることはできない。

「すまない。あの日からマイナスなことばかり考えてしまうんだ。お前のように明るい気持ちを持ち続けることが難しくてな」

「……特別僕は明るいわけじゃないですよ。ただ、与えられた環境で咲き誇ろうって思ってるだけです」

そう話している間に警視庁の巨大な建物が見えてきた。入り口の前まで来た時、紫月の足が止まる。一歩を踏み出すことがとても怖く感じ、手が微かに震えた。
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