Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「どうした?お前はわざわざあたしに事件解決を報告しに来るような人間じゃないだろう?」

「ああ。そうだな……」

アノニマスは無表情に見えた。しかしその瞳には僅かな感情が見えている。それを見た刹那、紫月の心の澱が少し消えた気がした。

「アノニマス、俺の協力者になってくれないか?」

アノニマスが頷く。紫月の口角が僅かに上がった。



圭太郎の事件が解決し、警視庁がマスコミに事件の容疑者などを公表した。テレビニュースやラジオは株式会社フォレストの次期社長が殺害された事件を大々的に報道している。

『今日未明、警視庁は殺害の容疑で八人の男女を逮捕しました。八人は株式会社フォレストの時期社長である森圭太郎さんを殺害した容疑がありーーー』

途中でラジオが切られる。黒い手袋をつけ、黒いコートを着た背の高い人物はゆっくりとラジオからあるものに目を向けた。

廃屋と呼んでも過言ではないその部屋の中央には、椅子が一つ置かれている。そこには一人の男性が縛り付けられていた。株式会社フォレストの社長である和也だ。

「う、うぅ〜!」

和也が身動きするたびに体を縛り付ける縄がギシギシと音を立てる。彼は恐怖で顔を歪めながら、猿轡をされている口から声を漏らした。

黒いコートの人物は和也にゆっくりと近付く。その手には注射器が握られていた。和也がさらに声を上げ、暴れた。

「息子の罪を揉み消そうとした愚か者に死を」

ギラリと光る注射器の針が和也の首に刺さった。
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