Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
『私、騙されとった。もう生きられやん……』

最後に泣きじゃくりながら女性が言った言葉が女の脳裏に蘇る。女は強く拳を握り締めた。そして呟く。

「大丈夫。絶対に私が助けるから。何があっても私はあなたを守るから」

もう失うものは何もない。女は手を伸ばし、目的のものを盗み出す。そして夜の闇の中へと消えた。



夜が明け、いつも通りの日常が始まる。

学生は学校へ、社会人は仕事へ。しかし平日でも社会人ならば仕事が休みの人もいる。紫月もその一人である。

今、彼の目の前にはたくさんのスイーツが並べられていた。さくらんぼのタルト、パイナップルプリン、チーズケーキ、ショートケーキ、チョコレートフォンデュ。見ているだけで紫月の胸が高鳴っていく。

(どれにしようか……)

たくさんのスイーツを選ぶこの瞬間も紫月は好きだ。じっくりと見て回り、チーズケーキとパイナップルプリンとショートケーキ選ぶ。

スイーツの乗った皿を持って紫月は歩く。スイーツが並んでいるコーナーから少し歩くとテーブルと椅子が並んでいる。そこには多くの女性がおり、スイーツを楽しんでいた。男性は見たところ紫月しかいない。
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