Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「選んだのか」

紫月が一つのテーブルに近付くと、向かいに座っているアノニマスが読んでいた本から顔を上げて声をかける。彼女は穴の空いた花の刺繍が解かれた真っ白なワンピースを着て、黒いロングヘアーのウィッグとリボンのついた麦わら帽子を被っていた。

全体的に甘いコーデの彼女の服装だが、アノニマスの前にはスイーツの盛られた皿は一枚もなく、ブラックコーヒーの入ったカップが一つ置かれている。

「甘ったるそうなものばかりだな」

紫月の持っている皿を見て、アノニマスは少し嫌そうな顔を見せた。紫月は「スイーツビュッフェだからな」と言い、椅子に座る。

「お前から連絡が来た時には何かと思ったが、まさかホテルのスイーツビュッフェの誘いだとは思わなかったぞ」

アノニマスが本をテーブルの上に置く。紫月はパイナップルプリンを一口食べた後、「すまない」と頭を下げた。

「どうしてもここのスイーツビュッフェに来たかったんだ。だが、こんな男一人では入りにくいんだ」

「お前の部下に頼んだらよかったんじゃないか?」

「あいつは今日仕事だ。そもそも男二人で来るところに見えるか?」
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