Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
(今度はペロー童話の眠り姫か……)

糸車の針で指を刺されて百年の眠りについてしまったお姫様の物語は、ペロー童話では王子様と結婚した後のことが描かれている。王子の母親は人喰い鬼で、お姫様は人喰い鬼に毒蛇や毒蜘蛛などが集められた壺の中へ落とされかけた。

紫月は拳を握り締める。嘲笑うかのように「童話殺人事件」は起こっていく。犯人は一体何者なのか、容疑者すら浮かび上がってこない。それがただ悔しい。

(アノニマスなら犯人の目星がつくだろうか)

ふとそんなことを紫月は思った。目の前に座るアノニマスは気持ちを落ち着かせるためか、ブラックコーヒーを飲んでいる。そんな彼女は紫月とは捜査の協力者という関係だ。

アノニマスに「童話殺人事件」の犯人像を聞いてみよう、そう紫月が決意した時だった。スマホが小刻みに振動する。どうやら電話がかかってきたようだ。

「すまない。少し先を外す」

紫月はそう言い、スマホを手にスイーツビュッフェコーナーを出る。電話をかけてきたのは仕事中のはずの蓮だった。

「もしもし」

『太宰さん、お疲れ様です!港区南麻布で事件です!』
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