Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「太宰さん」

紫月の手を蓮が取る。触れた温もりに紫月の恐怖が紛れていく。しかしすぐにここが公共の場であり、今この瞬間も多くの人が行き交っていることをすぐに思い出す。チラチラとこちらを見る視線を感じ、紫月は慌てて蓮の手を振り払った。

「子どもじゃないだ。こういうことは不要!」

「すみません。太宰さんが親と逸れた子どものように見えて……」

蓮の言葉に紫月は恥ずかしさを感じ、早歩きで警視庁の中へと入る。「待ってくださいよ!」と言う蓮を無視して歩いていると、「おや〜、そこにいるのは誰かと思えば太宰くんじゃないか」と馬鹿にしたような声がする。紫月が声のした方を向くと、二人の男性が立っていた。同期の中原優我(なかはらゆうが)と志賀智也(しがともや)である。

身長は男性にしては低めなものの、顔と雰囲気だけを見れば歌舞伎町のホストと言っても通じるであろう優我は、緩くパーマを当てた髪をセットし、ブランド物のスーツに身を包んでいる。
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