Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
そこは高級住宅街である。そんなところで殺人事件か、と紫月が思っていると蓮は続けた。

『梶井庄之助(かじいしょうのすけ)って知ってますか?その人の家で盗みがあったんですよ』

「盗み?俺たちは捜査一課に戻りたいんだろ。何で盗みを調べる必要があるんだ」

警察ではどこの課が何の事件を担当するか決まっている。紫月と蓮がいた捜査一課は殺人や誘拐など重大事件を扱う課だ。刑事ドラマでよく登場し、警察官が憧れる花形部署である。

『そんなこと言わないで来てくださいよ〜。俺一人じゃ嫌なんです!』

蓮が弱気な声で言う。今にも泣き出してしまいそうな声に、紫月の顔が引き攣った。

「待て、お前現場からかけてきてるのか?」

『はい。おまけに現場にあの子来てるんですよ〜』

あの子が誰を指す言葉なのか紫月はよく知っている。「すぐに向かう」と告げ、彼はテーブルへと戻った。スイーツはほとんど楽しめていない。しかし緊急事態とならば事件を優先しなくてはならないのだ。

「アノニマス、すまない。事件が起きて現場に行かなくてはならなくなった」
< 140 / 306 >

この作品をシェア

pagetop