Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
付き合ってもらったのにこの仕打ちは酷いなと自分で思いつつ、紫月は謝る。アノニマスは本から顔を上げ、「殺しか?」と鋭い目で訊ねた。紫月は首を横に振る。

「いや、盗みだ」

「盗み?何でお前が……」

「とりあえず呼ばれたから行く」

紫月はそう言い、皿に残っているスイーツを口の中に入れた。味わってなどいられず、甘いとしか感じられないことが悔しい。するとアノニマスは本を鞄の中に入れて立ち上がった。

「あたしも連れて行け」

「は?」

「お前の協力者だろう」

こうして、二人は事件現場へと向かうことになった。



事件現場はおしゃれな住宅街にあった。どの家も大きく、紫月は「土地代も含めていくらなんだか」と下世話なことを考えてしまう。しばらくすると野次馬が集まっている家を発見した。パトカーが何台も泊まり、制服姿の警察官の姿も見える。

「あそこだな」

アノニマスの言葉に紫月は「ああ」と頷き、歩くスピードが早くなる。チラリと隣を見ると彼女も同じスピードで歩いていた。身長差はかなりあるのだが、それを感じさせない。
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