Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「お前、野次馬の外にいた方がよくないか?」

紫月がそう言うと、アノニマスは「は?どういう意味だ?」と目を吊り上げる。紫月は野次馬をチラリと見た。その家の近所に住んでいるようなブランドものの服を身に纏った人の姿もあれば、SNSで情報を見て駆け付けたであろうジャージ姿の人もいる。

「あんな野次馬の中に入ったら潰されそうだから言っているんだが」

「背が低いと言いたいのか?ならばはっきりと言え!」

アノニマスは大きめの声を出し、紫月を睨み付ける。何を怒らせたのだろうかと紫月が戸惑っていると、「太宰さ〜ん!」と言いながらグレーのスーツを着た蓮が走ってきた。

「来てくれてありがとうございます。って、泉先生じゃないですか。もしかして二人ってデート中だったんですか?」

「違う!決してそういう関係じゃない!」

悪いことをしたような顔をする蓮に対し、紫月とアノニマスは同時に否定の言葉を言う。言葉が揃ってしまったことに紫月は少し嫌な気持ちを覚えた。その時だった。

「太宰さんじゃん。久しぶり〜」
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