Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「夏目、状況を聞くのを忘れていた。教えてくれ」

紫月は蓮の方を向く。ここにはもう一人増えた協力者の紹介をするために来たわけではないのだ。紫月の問いに蓮は手帳を出して答える。

「事件が発覚したのは今日の午前七時頃です。この家の家主である梶井庄之助さんが金庫を開けたところ、中に入っていた宝石がなくなっていたおり、警察に通報。その後最初に現場に来た警察官が屋敷内に設置されている防犯カメラをチェックしたところ、犯人と思われる女が映っていました。女の名前は東野美里(ひがしのみさと)。この家で働く使用人の一人です」

蓮はそう言い、鑑識から借りたのであろう防犯カメラ映像の写真を見せた。そこにはセミロングの茶髪の女の姿があった。服装は主人の趣味なのかコンセプトカフェで働く女性が着るような装飾の多めのエプロンワンピースを着ており、目鼻立ちはくっきりとした美人である。

「使用人が盗みか……」

「はい」

紫月は顎に手を当てる。使用人に主人は裏切られたのだ。気が付けばアノニマスが写真を持っており、真夜が背後から写真を覗き込んでいる。
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