Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

紺色のスーツを着たその男は、白髪混じりの髪をオールバックにして肩を大きく動かしていた。走ってきたのだろう。事件現場の中に入って来れるのだから、彼の職業が何かは察することができる。

「ああ、来てくれたのか……」

「当たり前だ。私たちの仲をなんだと思っている」

男と梶井はまるで海外ドラマのように熱い抱擁を交わしている。それを真っ青な顔で見ている蓮を紫月は小突いた。

「何を見ているんだ」

「あの！俺同性愛に偏見はないです！でも、その、目の前で見ると……」

「お兄さん馬鹿なの？友人同士でもハグくらい今はする時代でしょ？お兄さんって何時代の人間？」

真夜が刺々しく言い、紫月はため息を吐く。目の前の男を彼は警視庁内で見かけたことがある。班が違ったため関わりはないものの、彼は紫月たちより上の人物だ。

「彼は国木田文雄（くにきだふみお）さん。警視庁の管理官だ」

「えっ！？管理官！？」

蓮は驚いた顔で未だに抱き締め合っている二人を見つめる。真夜がそれを見て「自分の上の人間くらい覚えなよ」と呆れていた。