Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「風歌には確か幼なじみがいたはずだ。その幼なじみは女優になるために上京したから、自分も東京に来たと話していたことがあったな。……その幼なじみとやらには一度も会ったことはないが」

「……だそうだ、島崎。調べられるか?」

『俺に調べられないことはないよ!』

電話で状況を教えてもらっていた真夜の調べる音がスマホ越しに響く。数秒後、真夜は『見つけたよ』と声を出した。全員の耳が真夜の読み上げる情報に傾けられる。

『暁風歌の幼なじみの名前は桜町瑠璃(さくらまちるり)。梶井庄之助の芸能事務所に所属していたものの、テレビ出演はゼロ。雑誌にも載ったことはない』

意外な繋がりが見つかった。真夜が現場にいたことに感謝を覚えつつ、紫月は訊ねる。

「その幼なじみは今どこで何をしているんだ?」

真夜の言葉が詰まった。少しの沈黙の後、真夜は暗い声で言った。

『……それが、二年前に自殺未遂をして今も昏睡状態で入院してるみたい』

二年前というと風歌が庄之助の付き纏いで逮捕された時期だ。嫌な予感を紫月は覚える。アノニマスは唇を噛み締めた。
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