Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜



「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

荒い息を吐きながら風歌は走っていた。その手にはきちんとショルダーバッグがあり、中に入っている宝石の重みが彼女を安堵させ、足を動かす原動力となっている。しかしーーー。

「ううッ!」

痛みで彼女は顔を歪めた。彼女は血で汚れた足を引きずるようにしか進むことができず、腹部も血に染まっている。拳銃から放たれた二発の銃弾は正確に彼女の体に当たった。薬局に寄って包帯を購入して止血をしたものの、その痛みに何度も足を止めそうになる。しかし、ある一つの思いだけが風歌を動かしていた。

「絶対!絶対にあの子を助ける!」

もう一度あの花が咲いた笑顔を見たい。その一心で足を動かす。幸いにも追手の姿はない。あの男からなんとか逃げ出すことができた。

『トラブルが起きた。少し遅れるかもしれない。でも必ず届けるから待っていて』

そうメッセージを送ればすぐに既読がつく。『わかった」という一言に風歌の目の前がぼやける。あとは宝石を届けるだけだ。風歌は壁に手をつけながら歩いていく。
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