Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「中原!志賀!こんなところで何をしてるんだ。さっさと戻れ。捜査会議が始まるぞ」

鋭い声がした。その声に紫月の心の中に安心感が込み上げてくる。その声は低く、怒りを含んでいるものだったが、今の彼には熱で不安になっている時に優しく声をかけられた時のように思えた。

声のした方を見れば、昭和の刑事ドラマに出てきそうな白髪混じりの短髪に強面の男性がいた。羽織ったブラウンのトレンチコートがよく似合っている。捜査一課の刑事である芥川修二(あくたがわしゅうじ)だ。紫月と蓮の元上司である。

「す、すいませんでした!」

優我と智也はびくりと肩を震わせた後、紫月と蓮に背を向けて走って行く。紫月は二人には目もくれず、修二に頭を下げた。

「芥川さん、ありがとうございました」

「いや、別に大したことはしていない」

修二は照れ臭そうに一瞬笑ったものの、すぐにその顔は暗くなる。そして彼は紫月と蓮に頭を下げた。

「二人とも、すまなかった。俺がもっと上に強く言っていればこんなことにはならなかったはずだ」
< 16 / 306 >

この作品をシェア

pagetop