Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

秘密

風歌の目撃証言などは一向に見つからない。まるで煙になって消えてしまったかのようだ。

「どこに行ったんでしょうかね……」

蓮が額に浮かんだ汗をハンカチで拭く。ずっと歩き回っているため、紫月も喉の渇きを覚えた。近くに自販機を見つけてポカリを買う。ポカリを一気飲みすると胃の中が一瞬で冷たくなり、体が冷えた気がした。

「夏目、お前も水分をとっておけよ」

「はい!……太宰さん、泉さんにも言ってあげた方がよくないですか?」

自販機で麦茶を買う蓮が言い、紫月はアノニマスの方を向く。彼女は一度も足を止めることなく聞き込みをしている。アノニマスの頰を汗が伝った。紫月はため息を吐いて自販機でもう一本ポカリを買い、アノニマスに近付く。

「おい、少しは休憩をしたらどうだ?」

アノニマスの頰にポカリを当てると、彼女は「ひゃッ!」と声を上げて肩をびくりと動かす。突然冷たいものが触れて驚いたのだろう。その高い声に紫月の胸の鼓動が早くなる。

「何だ、お前か」

「お前かとはなんだ。ほら、これを飲め」
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