Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
アノニマスは少しの間ポカリを見つめた後、キャップを開けて一口飲んだ。途端に「甘……」と顔を顰める。彼女は甘いものが苦手だ。

「あたしには甘すぎるぞ」

「ポカリは水分補給にちょうどいいんだよ」

そう言いながら紫月がポカリを再び飲んだ時、スマホが音を立てる。別の場所で聞き込みをしている文雄からだ。

『何かわかったことはあるか?暁の目撃情報は?』

捜査の進展状況の確認である。紫月が芳しくないこの状況を伝えると、文雄は「そうか」と言う。その声はどこか焦っているように聞こえた。

『宝石が誰かの手に渡ってはまずい。早く奴を確保しなくては……!』

「そうですね」

スマホを握る紫月の手に力が入る。悪を決して許してはならない。それがアノニマスのかつての友人であっても、裁きを受けさせなくてはならない。それが警察官である自分の使命だ。そう心に言い聞かせる。

文雄との通話を切った後、ふとアノニマスの方を見ると蓮が話しかけているところだった。

「そもそもですけど、暁は何で梶井さんのことを付き纏っていたんですかね。こう言っちゃアレですけど、梶井さんってそれほどイケメンってわけでもないし……。梶井さんが暁に付き纏うのは違和感ないですけど」
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