Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「幽霊なんているわけないだろ」

紫月がそう蓮に返していると、文雄が走ってきた。息が大きく乱れ、セットしてあったであろう髪もボサボサに乱れてしまっている。しかし本人は気にしていないようだ。

「早く暁を確保しよう」

「はい!夏目、お前はここで出入り口を見張っていてくれ。泉先生もここで待機していてください」

「了解です!」

文雄がビルの中に入って行く。紫月もあとに続いた。古いビルにはエレベーターというものは存在せず、コンクリート製の階段だけがある。一段登るたびにコツコツと大きな音が響いた。

チラリと紫月は蓮とアノニマスの方を見る。蓮は警戒したような目で出入り口をしっかりと見張っていた。その隣でアノニマスは不安そうな顔をしている。その表情に紫月の胸は痛みを覚えた。

これから、暁風歌を確保しに行く。アノニマスの前に手錠をかけたかつての友人を連れて行かなくてはならない。その姿を見た時、彼女はどんな表情をするのだろうか。想像するだけで恐怖が生まれていく。
< 166 / 306 >

この作品をシェア

pagetop