Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「暁のものだな。署で解析してもらおう」

文雄が奪うように紫月の手からスマホを取る。そして紫月に何も言わずに屋上を出て行ってしまった。

(島崎も俺たちも暁に騙されていたんだな……)

スマホのGPS機能を追うことを彼女は予想していたため、適当なビルにスマホを置いたのだろう。風歌探しはこれで振り出しに戻った。そう紫月が思ったその時である。スマホに電話がかかる。真夜からだ。

「島崎、ビルに暁の姿はなかったぞ」

『うん、わかってたよ』

その返答に紫月は驚く。真夜の声には容疑者に騙された焦りも悔しさもなく、淡々としていた。いつも通りだ。

「どういうことだ?」

『暁の協力者に僕の存在が見つかった。それで、暁の犯行動機や目的を聞いたんだ』

「何だと!?」

紫月の口から大きな声が出る。彼の心臓は大きく波打っていた。頰を汗が伝う。真夜の低い声が響いた。

『国木田っておっさんには内緒にしてくれる?暁の居場所はわかってるから』
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