Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
それから真夜の話したことは、紫月にとって信じられないようなものだった。風歌の犯行動機には明確な証拠はどこにもない。捜査をしなければわからない。

「……捜査をしないことには何とも言えないな」

『まぁ、警察官ならそうだよね。とりあえず暁の居場所だけ教えとくよ』

真夜から風歌の居場所を聞いた後、紫月はビルの外にいる蓮の元へ向かった。



手足の感覚がもうなくなっていた。まるで体が何者かに取り憑かれたかのように動かなくなっていく。それでも懸命に風歌は体を動かした。口からは荒い息を吐き、あの場所へと辿り着く。瑠璃との思い出が詰まった公園だ。

『ここすごない?大都会の真ん中にこんなに緑がいっぱいある!』

瑠璃の笑顔が脳裏に浮かぶ。風歌の体が崩れ落ち、芝生の上に倒れた。もう動くことはできない。傷口の熱だけが彼女にまだ自分に命の火が灯っていることを伝えている状態だった。

「瑠璃、ちゃん……」

その名を呟くだけで彼女の心は軽くなる。長く心の中で特別に想い続けた人の名だ。だからこそ、庄之助を許すことができなかった。
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