Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
『瑠璃は頭に大きなダメージを受けた。それを治す方法は外科手術しかないんやけど、その手術ができるのはアメリカの医者だけなんやって言われて……。アメリカに行くお金も、手術代も、この家にはあらへんから……』

瑠璃の母親にそう言われた時、風歌はこの犯行を決意した。どんな危険が伴おうとも、自分の人生を捨てることになろうとも構わない。そう思った。

庄之助の好みの女性の顔をリサーチし、顔を変えた。そして名前も偽名を使った。そして何でも屋であるウィリアムと接触し、今回の計画に加わってもらった。全ては瑠璃一人のために。

ウィリアムに持たされたプリペイドスマホが音を立てる。風歌は力を振り絞ってスマホをポケットから出した。そこにはメッセージが送られてきていた。

『無事に送金完了しました。手術の手配も完了しています。今、瑠璃さんはアメリカへ出発する準備中です』

ウィリアムからのメッセージに風歌の目から涙が零れ落ちる。やっとこの時が来た。感謝の言葉を打った。彼女の体はまた力を失い、手からスマホが落ちていく。
< 170 / 306 >

この作品をシェア

pagetop