Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

目の前にいるのはアノニマスだ。しかし、風歌は幸せそうに幼なじみの名前を呼ぶ。アノニマスの頰を涙が伝った。紫月は拳を握り締めた。暁風歌の命はもうすぐ消えようとしている。

「瑠璃、ちゃん……。あたし、ずっと言えやんかったことがあるん。……好きな人のこと。瑠璃ちゃんを困らせるって思ってずっと言えやんかったけど、あたしの気持ち、言ってもいい？」

「うん、いいよ」

アノニマスは会ったことのない彼女の幼なじみを演じる。穏やかで優しい声で言うと、風歌は手を伸ばした。その手をアノニマスは優しく握る。

「あたし、瑠璃ちゃんのこと好きやよ。……友達としてじゃなくて恋愛の意味での好き。……急にこんなこと言ってごめんな」

「私も好き。風歌ちゃんのこと好き」

アノニマスは嘘を吐いた。残酷だが優しい嘘を吐いた。アノニマスは泣きながら笑う。その表情に紫月の胸が締め付けられる。アノニマスが何よりも美しいものに見えた。

「嬉しいなぁ。両想い……かぁ……」