Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

本当の悪

翌日、紫月は暗い顔で警視庁の廊下を歩いていた。目指すは自分の配属されている「未解決捜査課」である。その頭の中では、様々なことが渦巻いていた。

暁を発見するのがもっと早ければ彼女が亡くなることはなかったのではないか。そもそも何故彼女は銃で撃たれていたのか。真夜に接触したドイルという人間は何者なのか。そんなことを考えていると、ポンと肩を叩かれた。

「太宰、そんなに思い詰めた表情をしてどうしたんだ?」

声をかけてきたのは修二だった。心配そうにしている彼を見ていると、紫月の心も少し軽くなる。部署が変わってしまってもこうして気にかけてくれることに、紫月は修二へ感謝の気持ちを抱いていた。彼ほど理想の上司はいないとすら思っている。

「実は昨日、こんな事件がありましてーーー」

修二に事件の内容とその結末を伝えると、彼は顔を顰めた。そして「容疑者死亡か……」と苦々しく呟く。警察の役目は犯人逮捕が目的ではない。何故事件が起こってしまったのか調べ、犯人に裁きを受けさせ、被害者を救う。しかし犯人が亡くなった場合、裁きを受けさせることは当然できず、警察として最も苦い終わり方となってしまう。
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