Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「もっと俺が早く容疑者を見つけていればと考えてしまいます」

心の内側にある思いを正直に吐露すると、修二は「そう落ち込むな」とまた紫月の肩に触れる。逞ましい大きな手だ。

「容疑者が死んだのは決してお前のせいじゃない。それはみんなわかっているさ」

「……ありがとうございます。そう言ってもらえると少し心が軽くなります」

紫月が微笑むと修二もホッとしたような表情を見せてくれた。その時、「芥川さん」と智也が緊張したように話しかけてきた。

「被害者の会社に聞き込みに行きましょう」

「ああ、すぐ行く」

どうやら世田谷区で殺人事件があったらしい。智也がチラチラとこちらを見てくる。首を突っ込んでくるかどうか見ているのだろう。しかし、紫月は二人に背を向けて歩き出した。

「捜査一課の事件に首突っ込まないの?」

不意にそんな言葉がかけられる。紫月が横を見れば、いつからいたのか尚美が立っていた。その手にはスターバックスの新作フラペチーノがある。顔にはしっかりとメイクが施されていた。
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