Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月が碧の興奮に驚いていると、「それ、本当なの!?」と大声が響き渡る。尚美だった。彼女は酷く動揺した表情で紫月に詰め寄ってきた。

「私、馬酔木先生の大ファンなの!!先生は今拘置所?会えるかしら?」

尚美は紫月の肩を掴んで揺さぶる。それを蓮が慌てて止めた。

「葉山さん、落ち着いてください!それに馬酔木先生……いや、暁風歌は……」

蓮の声が暗くなる。それに尚美の興奮がピタリと止んだ。「何があったの?」とその瞳を不安げに揺らす。蓮が紫月の方を見た。その表情は暗い。紫月の顔も同じように暗いだろう。

「全てお話しします」

紫月と蓮は交代で昨日の出来事を話した。全員の表情が暗くなり、暁風歌の死に尚美の瞳から涙が溢れていく。

「そんな……!私、警察官として生きることを強要されて生きる希望がなかった時に先生の小説に救われたのに!」

「……だからこそ、この事件の真実を見つけたいんです」

紫月は風歌の最期の様子を頭の中で思い出しながら言う。彼女が何故このような犯行に及んだのか。その真実を明らかにしなくてはならない。
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