Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
日本で犯人を特定できていない未解決事件は百件を超える。年月が経ち、人々の記憶から事件が消えてしまったとしても、遺族の記憶からその出来事が消える日は来ない。

何故、あの人が殺されなければならなかったのか。そんな苦く重い気持ちを自身の命が尽きるまで考え続けなくてはならない。

そんな未解決事件の捜査を行うのが「未解決事件捜査課」である。ーーーしかし、これはあくまで表向きの理由だ。警視庁で働く捜査員たちはこの部署にだけは配属されたくないと願っている。

何故ならこの部署は、警察官の中でも落ちこぼれや役立たずと呼ばれる者たちが寄せ集められた場所のためだ。この部屋で定年を迎えるまで大人しくしていろ、お前たちは捜査に必要ない、市民を守れない、そう通告されているのと同じなのである。今日から紫月と蓮もその仲間入りを果たすのだ。

「……入るか」

このドアを開けたくはない。しかし、もう捜査一課に自分たちの場所はない。紫月は大きく息を吐き、覚悟を決めてドアを開けた。

「失礼します。本日よりこちらに配属となりました。太宰紫月です」

「同じく配属となりました。夏目蓮です」
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