Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
庄之助が顔を真っ赤にして大きな声を上げる。文雄がセットされた髪に触れながら「証拠はあるのか?」と睨み付ける。そこへ「あるわよ、もちろん」と言いながら尚美が入ってきた。その手にはボイスレコーダーがある。

「梶井さん、町田春香(まちだはるか)って子覚えてます?あんたの事務所に所属してた私の友達なんです。その子がこんな会話を録音してくれてましたよ」

ボイスレコーダーを尚美が再生する。庄之助と春香の会話がはっきりと全員の耳に届いた。

『事務所を辞める?何を言っているんだ!』

『だって、接待ばかりでテレビに全然出してくれないじゃないですか。おまけに体を触られて、もう限界なんです!』

『それくらい我慢しろ!我慢をしないとテレビになんて出られないぞ!』

春香の泣き声が響き渡る。尚美はボイスレコーダーを止め、「何か言いたいことあります?」と訊ねた。一瞬目を泳がせた庄之助だったが、すぐに「そんなものデタラメの音声だ!」と食ってかかる。尚美はため息を吐いた。

「太宰、どうすんの?このおっさん認めようとしないけど」

「困りましたね。同じような証言がいくつもあるんですが」
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