Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
文雄の言葉を紫月は即座に否定した。そして資料を取り出す。風歌の解剖結果が書かれたものだ。

「暁風歌は二発銃で撃たれていました。一発目は足に、そして二発目は腹部に」

「それがどうした?私が撃ったという証拠はない」

文雄は余裕のある笑みを浮かべた。しかしその腰にある拳銃に紫月は目を向ける。そして続けた。

「暁風歌の体内から銃弾が摘出されました。銃弾は体の中に残っていたんです」

その一言に文雄の顔から表情が消える。銃弾は調べればどの銃から発射されたものなのか特定が可能だ。幸成たち監察医はすでにその銃弾が警察官が持つことを許可されているリボルバーのものであることを突き止めている。

「署までご同行願います」

紫月の一言に、庄之助と文雄はただ項垂れるしかなかった。



庄之助と文雄を警視庁に連行した後、二人の取り調べが休む間もなく行われた。取り調べを紫月たちも手伝い、警視庁を出ることができたのは午後八時を過ぎていた。

「こんなに遅くまで働いたの久々ですね〜」

蓮が笑う。捜査一課にいた頃はもっと遅くまで仕事の方が珍しくなかった。久しぶりの残業に紫月も「ああ」と呟く。すると「太宰さん!夏目さん!」と声をかけられた。振り向くとそこには碧と彰、そして尚美の姿がある。三人も捜査に協力し、残業してくれたのだ。
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