Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「大きな仕事がひと段落しましたからね」

「その大きな仕事で暁風歌の命は失くなったわけだが」

アノニマスの涙を思い出し、紫月の声に怒りが滲んでいく。それに動じることなくウィリアムはワイングラスを傾けた。

「自分が死ぬかもしれないことを彼女は覚悟していましたよ。そして、こう言っていました。「私をあの人たちが殺すつもりなら、私はそれに抗うことなく受け入れます。目的はただ一つ。瑠璃ちゃんを救うことだけです」と。そしてその目的は果たされた」

桜町瑠璃の家族に紫月たちは事前に連絡を取っていた。慈善団体を名乗る者から何億というお金とアメリカの専門病院の紹介状が送られてきたという。瑠璃はアメリカで手術を受け、順調に回復しているそうだ。

「あとは桜町さんがアメリカから帰ったらこれを渡してほしいと頼まれました」

ウィリアムが鞄の中から一冊の本を取り出す。青い鳥が青い薔薇をくわえている絵が表紙に書かれている。その本のタイトルは「君に、青い薔薇の花束を」と書かれていた。

「この本は……」
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