Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
二人はドアを開けた後、そう名乗ったのだが部屋にいる四人の男女はこちらを見向きもしない。比率は男性が三人で女性が一人だ。みんなそれぞれ自分のデスクに座っているものの、仕事をしている素振りは一切なく、スマホを触ったり自分のやりたいことをしているようだった。

「あの〜……」

蓮が引き攣った笑みを浮かべながら声をかけるも、誰も反応しない。みんな自分の世界に夢中なようだ。紫月はため息を吐きながら、部屋の中をぐるりと見回した。

部屋の広さは学校の教室二つ分で、部屋の中央にデスクが置かれている。デスクをぐるりと取り囲むように本棚が置かれ、そこには未解決事件について纏められた資料が綺麗に並んでいた。しかし、本棚には埃が積もっており、ここにいる誰もこの本棚に一度も触れていないことがわかる。

(未解決事件だけじゃなく、死亡事故の記録まだあるのか……)

交通事故だけでなく、火災や労働災害で起きたものもある。それらを一通り見た後、紫月はデスクの方を見る。そして、事前に聞いていたここにいる捜査員たちの情報を頭に浮かべた。
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