Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

振り返ったウィリアムは憎々しく思うほど爽やかな笑顔だった。ウィリアムはそっとウインクする。

「花言葉は覚えておいて損はありませんよ。女性へのプレゼントに役に立つ」

ウィリアムは出入り口のドアへと向かって歩き出す。そしてドアの近くにいた真夜に気付き、足を止めた。真夜はウィリアムを睨み付ける。

「おっさん、次は絶対にハッキングなんてさせないから！」

「それは楽しみだ。君の技術の腕がさらに上がることを期待しているよ」

そう言い残し、ウィリアムはバーから出て行く。それを見送っていた紫月にバーテンダーが「何か飲まれますか？」と訊ねた。グラスはもう拭き終わったようだ。

「なら、あいつにオレンジジュースを。俺はアレキサンダーを」

真夜が隣に座る。バーテンダーが慣れた手つきでグラスにカクテルとジュースを用意し、すぐに二人の目の前にグラスが開かれた。

「乾杯」

紫月と真夜がグラスを手に取る。クラシックのBGMが流れるバーにグラスのぶつかる音が響いた。