Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

案内されたのは面会をする部屋ではなかった。コンクリート製の空き部屋だ。そしてそこには一人の男が倒れていた。その体は血に染まっている。

顎の辺りに青いペンキを塗られているものの、その男が誰なのか庄之助にはすぐにわかった。文雄だ。文雄は目を見開き、血の海の中で生き絶えている。

「おい、これはどういうーーー」

刑務官に庄之助は掴み掛かろうとした。しかしその体は突き飛ばされ、地面に倒れる。顔を上げた庄之助は絶望を感じた。刑務官が大きな剣を振り上げていたからだ。

「罪なき少女を傷付けた者に死の鉄槌を」

庄之助が悲鳴を上げる間もなく、剣が彼の体を斬り付けた。



同時刻　東京都中央区

日中の気温が三十度を超えることが珍しくなくなってきた。夕方だというのに汗が噴き出してくる。紫月は汗をハンカチで拭い、大通りを歩いた。

大通りには様々な飲食店が並び、仕事帰りの疲れ切った大人がフラフラと吸い寄せられるように店の中へと入って行く。そんな姿を横目で見つつ、紫月も待ち合わせ場所へと向かう。店の前である人物と待ち合わせをすることになっているためだ。