Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
しばらく何気ない話を交わした後、アノニマスが不意に真剣な表情になった。凛としたその顔に紫月の目が釘付けになる。鼓動が早くなった。

「この前、お前が頼んできたことを考えてみた」

「あの殺人事件の犯人像のことか?」

紫月の胸に緊張が走る。彼はアノニマスに「童話殺人事件」の犯人像を推理できるか頼んでいた。この殺人事件は今も捜査一課が追い続けている。紫月の脳裏に事件資料と向き合う修二の顔が浮かんだ。

「事件の概要を元に考えてみた。太宰、聞きたいか?」

「当然だろう。何のためにお前に推理を頼んだと思っているんだ」

アノニマスは紫月に顔を近付ける。そして声を潜めながら話し始めた。

「事件の資料を読んだ。その時にあたしが真っ先に感じたのは事件があまりにも完璧すぎるということだ」

「完璧」

「ああ。証拠の一つも落ちていない。周辺の防犯カメラにも怪しい人物は映っていない。今の時代に証拠の一つも見つからない事件なんてあり得ない」

「つまりどういうことだ?犯人は証拠隠滅の知識が豊富なのか?」
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