Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月の問いにアノニマスは一瞬迷う素振りを見せる。そして「聞いたら後悔するかもしれないぞ」と低い声で言う。紫月はすぐに返した。

「後悔はしない。教えてくれ」

「わかった」

紫月の強い意志を感じ取ったのだろう。アノニマスはゆっくりと息を吐いて言葉を続ける。

「犯人は恐らくーーー」

「翡翠、こんなところで何してるの!?」

悲鳴にも似た大声が聞こえ、紫月はびくりと肩を震わせる。アノニマスの冷たく見える無表情の顔に驚きが生まれた。否、驚く演技をしているのだ。

「叔母さん、驚かさないでください」

困ったように笑いながらアノニマスは言う。二人の最後に翡翠の叔母であり、弁護士をしている千秋の姿があった。彼女はギロリと紫月を睨み付ける。

「どうして刑事と二人で食事してるの!?まさか付き合っているの!?刑事なんてやめなさい!!彼氏がほしいなら叔母さんが事務所の弁護士を紹介するわ!!」

早口に捲し立てられ、紫月は「落ち着いてください」と声をかける。しかし千秋は「うるさい!!」と言い、アノニマスを抱き締めた。
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