Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「叔母さん、他の人の迷惑になりますからやめてください。太宰さんとはそういう関係ではありませんよ。ただ、私が刑事の仕事について食事がてら取材しているだけです」

「そ、そうなの?」

千秋は驚いた様子でアノニマスを見つめる。アノニマスは穏やかな表情で「はい」と頷いた。千秋はアノニマスの頭を撫でながら息を吐く。

「ならよかった。あなたが変な男に振り回されているんじゃないかって思って。店の窓からあなたが見えた時、早く助けなきゃって思っちゃったわ。ごめんね、翡翠」

「俺は刑事です。変な男ではありません」

紫月はそう反論したものの、千秋は一瞬チラリと目を向けただけで何も返してこない。しばらく翡翠の頭を撫でた後、千秋はまた口を開いた。

「また近いうちに遊びに行くわ。またね、翡翠」

「わかりました、叔母さん」

千秋が中華料理店の外に出て行き、パンツスーツ姿が見えなくなった後、紫月は息を吐いて「相変わらずすごい人だな」と呟く。目の前の女性からも笑みは消え、翡翠ではなくアノニマスに変わる。
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