Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「ああ。翡翠のことを溺愛しているんだ」

そう言ったアノニマスの声は、どこかうんざりしているようだった。そんな表情に紫月の心は動かされていた。



翌日、紫月はいつものようにスーツに着替え、警視庁へと向かう。すっかり自分の部署となった「未解決捜査課」へと入った。

「おはようございます」

紫月が挨拶をしながら部署へと入ると、「太宰!大変!」と言いながら尚美が駆け寄ってきた。その顔は驚きと戸惑いに満ちている。蓮と彰、碧が「落ち着いてください」と尚美を宥める。

「何があったんだ?」

紫月は蓮に訊ねる。蓮はどこか緊張した様子で「拘置所から連絡があったんです」と言った。尚美が叫ぶように言う。

「国木田文雄と梶井庄之助が殺された!!」

「えっ!?」

紫月は驚き、デスクの上に広げられていた事件の資料を手に取る。拘置所の空き部屋で血塗れで倒れている二人の遺体がそこには写っていた。二人の顎は青いペンキで染められている。

「これって今世間を騒がせている「童話殺人事件」ってやつですよね。何の童話ですか?」
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