Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
碧の問いに紫月は「青髭だ」と呟いた。青髭とはフランスの詩人であるシャルル・ペローによる童話のことである。

家族と暮らしていた娘の元に、お金持ちの青髭の男が現れ、娘を妻にしたいと言う。父親は喜び、すぐに青髭の申し出を受けた。娘は屋敷に連れて行かれ、ある時青髭は旅に出ることになった。その際に青髭は屋敷の全ての部屋の鍵を渡されるが、金の鍵の部屋にだけは入るなと命じた。

しかし娘はその命令を破り、金の鍵の部屋に入る。するとその部屋は血塗れで、天井からはたくさんの女性の遺体がぶら下がっていた。あまりに恐ろしい光景に娘は血の中に金の鍵を落としてしまう。鍵についた血は何をしても取れなかった。

屋敷に帰ってきた青髭は娘が金の鍵の部屋に入ったことを激怒し、娘を殺そうとした。しかし娘は最後にお祈りをしたいと言い、兄に助けを求めた。そして娘が殺されそうになった時、兄が助けに入り、青髭は斬り殺された。

紫月が青髭の話の内容を大まかに説明すると、部署内は静まり返った。童話は時に現実の事件よりも恐ろしいほどに残酷である。しかし、この童話のような事件が実際に起きているのだ。
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