Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「拘置所で殺人ってヤバくね?犯人どんだけ大胆不敵なんだよ……」

顔を真っ青にした彰が消えてしまいそうな声で言う。その隣で尚美が綺麗にマニキュアが塗られた爪を噛んでいた。その顔は悔しげに歪んでいる。

「あの二人、馬酔木先生を殺した罰をまだ受けていないのに!」

部署内の空気がさらに重くなっていく。その時だった。警視庁内に放送が鳴り響いた。

『事件発生!事件発生!場所は東京都大田区×××ー××。捜査員は直ちに現場に向かってください』

その放送に紫月は蓮の方を見る。蓮は真剣な表情でこちらを見ていた。彼は足早に扉へと向かう。蓮も続いた。

「現場に行ってきます!」

紫月はそう言い、驚いた様子の尚美たちには目もくれずに走り出す。捜査一課のある場所から修二たちも現場に向かうのが見えた。



事件が起きた現場は、今から十年以上前に閉鎖された廃工場だった。普段は人などほとんど通らない静かな場所のはずだが、廃工場の前には何台ものパトカーが止まり、規制線が張られ、野次馬の姿もある。
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