Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「こんな廃工場なら人なんて滅多に来ない。殺人には向いている場所だな」

錆びて書かれている字が読めなくなった看板を見ながら紫月は言う。蓮も頷き、「どうやら遺体が見つかったみたいですね」と歩き出した。

この廃工場は、かつてはメッキ加工を主軸とする工場だったようだ。工場内に一歩足を踏み入れると、その加工に使われていたであろう機械がそのまま残されている。何年も使われず時が止まってしまった機械たちは、ただ静かにまた起動させられるのを待っている状態だ。

廃工場の奥に遺体はあった。鑑識や先に現場に到着していた捜査員たちが現場のあちこちを観察している。少し離れたところでは、修二がスーツ姿の男性から話を聞いていた。四十代と見られるその男性が遺体の第一発見者のようだ。

「第一発見者から先に話を聞きますか?」

蓮の問いに紫月は「あとにしよう」と首を横に振る。先に遺体の状態を見ておきたかった。鑑識がカメラで撮影をしている遺体に近付く。
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